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カスタマーレビュー
おすすめ度:
時代が一変したローマ
(2008-11-30)
帝国の西方では蛮族の侵入が相次ぎ、東方ではササン朝ペルシアの興隆に伴う侵攻が開始され、幾度となく防衛線が突破された困難な時代を取り扱っている。「3世紀の危機」と言われるそうで、西暦でいうと、 211年から284年での73年間のあいだの出来事。この間に22名もの皇帝が乱立したというのだから、政治の混乱は頂点に達したと言って良いのではないか。
本シリーズでは、ユリウス・カエサルの言葉がたびたび引用されてきたが、カラカラ帝の発した「アントニヌス勅令」ほどこの言葉--「どんなに悪い結果に終わったことでも、それがはじめられたそもそもの動機は、善意によるものであった」--が当てはまるものはなかった。この勅令によって属州民を一括してローマ市民としてしまったことにより、ローマ帝国を構成するローマ市民権保有者からは気概を、属州民からは向上心を、国庫からは属州税を、奪ってしまった。ローマ市民が軍団兵をつとめ、属州民が補助兵をつとめることで成り立っていたローマの軍制を破壊した。百害あって一利なしとはこのことであった。
22人の皇帝のうち、雷にあたって死んだカルスを除き、寿命で死んだのはクラウディウス・ゴティクスとタキトゥスの2人だけであった。大半が暗殺され、残りは自殺したり戦死したりした。ヴァレッリアヌスのように、ペルシアに捕らわれて死んだ皇帝もあった。五賢帝時代と比べるとローマ的な公共心の強い人物が減り、ちっぽけなつまらぬ人物が増えた。
人が時代を変えることもあるし、時代が人を変えることもある。人生に必ず終わりがあるように国家にも終焉を迎えるときがくる。国家としてのローマは十分長く生きた。ローマ人たちは、その終焉を少しでも先に延ばそうと努力する。続巻が楽しみだ。
やはり読み応えあり
(2008-09-05)
待望の、「ローマ人の物語」の文庫最新刊です。
このシリーズ、前半ほど波乱に富んだ魅力的な人物は出てこないんですが(史実とその分析なんで、当然ですが)、それでもとても面白くて含蓄に飛んでいて自分にとって滋養になる作品なので、出るたびに古代ローマの世界にはまり込んで読んでしまいます。
さて。
本作では3世紀のローマが舞台で、このあたりからローマは完全に崩壊へと向かっていきます。それまでは敗者を同一国家の帝国内に同化して肥大化させてきたローマが徐々に潰れていく過程が描かれています。この33巻はその序章ということで、どうしてローマが滅んでいったのかということをその当時の3人の皇帝を順々に紹介していくことで浮き彫りにしています。
たとえば、カラカラテルメで有名なカラカラ帝(ちなみにテルメは浴場です。なので宝塚にあったカラカラテルメはカラカラ帝の浴場という意味だったわけですが、イタリアからきた人はどうしてこんなものが日本にあるのか首をかしげたでしょうね。感覚としては、日本人がヨーロッパにいったら、その片田舎にいきなり「秀吉太閤の湯」みたいなお風呂屋さんがあるようなものですから)。
彼は「すべてのローマ帝国領内の人間はローマ市民権を得る」という新法を出しますが、これがいけないと塩野七生さんは書きます。一見すると、これはローマの敗者同化主義の延長で、今まで同様の権利委譲に見えるし、ヒューマンなものだが、これによって逆にローマ軍の中核である市民の志気が下がり、財政上の問題も出て来た。人間は「取得権ならば頑張るが、既得権になった時点で頑張らなくなる」という視点からこの法によってかえってローマ全体の一体感が薄れたのではないかという風に示しています。
このあとタイミングも悪くローマは、長年の宿敵パルティアを倒して大ペルシアの復活をもくろむササン朝ペルシアとの戦争に突入してしまうんですが、その前段階としてのパルティアとの戦争に弱腰であったとしてカラカラ帝は暗殺され、それを指揮していたのではないかといわれるマクリヌスが皇帝としてたつも、戦争をシリアの放棄という形で講和した(このあたり、弱腰だとして前皇帝を非難して暗殺した本人がそうなっちゃうのが少し理解に苦しむ人ですが)ということで、マクリヌス自身が暗殺で殺されてしまいます。反動のような形でカラカラの血をひく、ヘラガバルスやアレクサンダルが皇帝にたつもののじわじわとローマは崩れていきます。ヘラガルバスなどは、男色でしかも自分が受けの方であったことを公然としていたこともあって侮蔑の上で殺されてしまいますし、アレクサンドルもガリアとの戦いでの弱腰を非難されて暗殺されます。
こうしてみてみると、時代が要請したこともあるかも知れませんが、マッチョではないということで少しでも弱腰を見せるといかに皇帝であろうと暗殺されたり殺されたりしていく、しかも前線で配下の将軍や近衛軍に殺されたりしていくというパターンになっていきます。やはり軍部が力を持つと恐ろしいことになっていくのだなぁとしみじみ思います。
これよりも古代のローマでも内戦めいたこともあったし、元老院と皇帝の戦いや、皇帝ら有力貴族同士の権力闘争もありましたが、あくまで巨頭同士の戦い的なものが多かったのが、このあたりの皇帝は絶大な権力をもつといえども、気にいらなければ殺されるような危ういものになっていってて、このあたり通史としてローマ国が建国されたあたりからずっと読み進めてきただけに感慨深いです。感想というよりは紹介みたいになってしまいましたが「ローマ人の物語」はやはり面白いです。
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時代が一変したローマ
帝国の西方では蛮族の侵入が相次ぎ、東方ではササン朝ペルシアの興隆に伴う侵攻が開始され、幾度となく防衛線が突破された困難な時代を取り扱っている。「3世紀の危機」と言われるそうで、西暦でいうと、 211年から284年での73年間のあいだの出来事。この間に22名もの皇帝が乱立したというのだから、政治の混乱は頂点に達したと言って良いのではないか。
本シリーズでは、ユリウス・カエサルの言葉がたびたび引用されてきたが、カラカラ帝の発した「アントニヌス勅令」ほどこの言葉--「どんなに悪い結果に終わったことでも、それがはじめられたそもそもの動機は、善意によるものであった」--が当てはまるものはなかった。この勅令によって属州民を一括してローマ市民としてしまったことにより、ローマ帝国を構成するローマ市民権保有者からは気概を、属州民からは向上心を、国庫からは属州税を、奪ってしまった。ローマ市民が軍団兵をつとめ、属州民が補助兵をつとめることで成り立っていたローマの軍制を破壊した。百害あって一利なしとはこのことであった。
22人の皇帝のうち、雷にあたって死んだカルスを除き、寿命で死んだのはクラウディウス・ゴティクスとタキトゥスの2人だけであった。大半が暗殺され、残りは自殺したり戦死したりした。ヴァレッリアヌスのように、ペルシアに捕らわれて死んだ皇帝もあった。五賢帝時代と比べるとローマ的な公共心の強い人物が減り、ちっぽけなつまらぬ人物が増えた。
人が時代を変えることもあるし、時代が人を変えることもある。人生に必ず終わりがあるように国家にも終焉を迎えるときがくる。国家としてのローマは十分長く生きた。ローマ人たちは、その終焉を少しでも先に延ばそうと努力する。続巻が楽しみだ。
やはり読み応えあり
待望の、「ローマ人の物語」の文庫最新刊です。
このシリーズ、前半ほど波乱に富んだ魅力的な人物は出てこないんですが(史実とその分析なんで、当然ですが)、それでもとても面白くて含蓄に飛んでいて自分にとって滋養になる作品なので、出るたびに古代ローマの世界にはまり込んで読んでしまいます。
さて。
本作では3世紀のローマが舞台で、このあたりからローマは完全に崩壊へと向かっていきます。それまでは敗者を同一国家の帝国内に同化して肥大化させてきたローマが徐々に潰れていく過程が描かれています。この33巻はその序章ということで、どうしてローマが滅んでいったのかということをその当時の3人の皇帝を順々に紹介していくことで浮き彫りにしています。
たとえば、カラカラテルメで有名なカラカラ帝(ちなみにテルメは浴場です。なので宝塚にあったカラカラテルメはカラカラ帝の浴場という意味だったわけですが、イタリアからきた人はどうしてこんなものが日本にあるのか首をかしげたでしょうね。感覚としては、日本人がヨーロッパにいったら、その片田舎にいきなり「秀吉太閤の湯」みたいなお風呂屋さんがあるようなものですから)。
彼は「すべてのローマ帝国領内の人間はローマ市民権を得る」という新法を出しますが、これがいけないと塩野七生さんは書きます。一見すると、これはローマの敗者同化主義の延長で、今まで同様の権利委譲に見えるし、ヒューマンなものだが、これによって逆にローマ軍の中核である市民の志気が下がり、財政上の問題も出て来た。人間は「取得権ならば頑張るが、既得権になった時点で頑張らなくなる」という視点からこの法によってかえってローマ全体の一体感が薄れたのではないかという風に示しています。
このあとタイミングも悪くローマは、長年の宿敵パルティアを倒して大ペルシアの復活をもくろむササン朝ペルシアとの戦争に突入してしまうんですが、その前段階としてのパルティアとの戦争に弱腰であったとしてカラカラ帝は暗殺され、それを指揮していたのではないかといわれるマクリヌスが皇帝としてたつも、戦争をシリアの放棄という形で講和した(このあたり、弱腰だとして前皇帝を非難して暗殺した本人がそうなっちゃうのが少し理解に苦しむ人ですが)ということで、マクリヌス自身が暗殺で殺されてしまいます。反動のような形でカラカラの血をひく、ヘラガバルスやアレクサンダルが皇帝にたつもののじわじわとローマは崩れていきます。ヘラガルバスなどは、男色でしかも自分が受けの方であったことを公然としていたこともあって侮蔑の上で殺されてしまいますし、アレクサンドルもガリアとの戦いでの弱腰を非難されて暗殺されます。
こうしてみてみると、時代が要請したこともあるかも知れませんが、マッチョではないということで少しでも弱腰を見せるといかに皇帝であろうと暗殺されたり殺されたりしていく、しかも前線で配下の将軍や近衛軍に殺されたりしていくというパターンになっていきます。やはり軍部が力を持つと恐ろしいことになっていくのだなぁとしみじみ思います。
これよりも古代のローマでも内戦めいたこともあったし、元老院と皇帝の戦いや、皇帝ら有力貴族同士の権力闘争もありましたが、あくまで巨頭同士の戦い的なものが多かったのが、このあたりの皇帝は絶大な権力をもつといえども、気にいらなければ殺されるような危ういものになっていってて、このあたり通史としてローマ国が建国されたあたりからずっと読み進めてきただけに感慨深いです。感想というよりは紹介みたいになってしまいましたが「ローマ人の物語」はやはり面白いです。
